2005年10月のレビュー

 

 2005年10月29日(土)  揺らぐ世界の調律師 1

   ビーンズ文庫   津守時生:作  やまねあやの:絵

雑誌「ザ・ビーンズ」に連載されている津守先生の新シリーズが、ようやく文庫で登場です。独特の世界観のあるファンタジーで、雑誌掲載時から面白い作品だと注目していたので、こうして改めて読むのが嬉しいです。主人公は音叉の一族と言う特殊能力をもつ一族に産まれた変声期前の少年。母を早くに亡くし、父と二人暮しをしています。世界のいろいろな物質を安定させ、再構築する「調律師」としての力を持つ彼らは、その力ゆえに閉ざされた「音叉の里」に住んでいるのですが、最近彼らを襲う輩が増え、無理矢理に音叉の里にも押し入ってきて…。

独特の世界観を持つ、と書きましたが、ほんとうに不思議な感じの作品で、しかも面白いです。発想も面白いしキャラもいいし、さすが津守先生と思える作品です。主人公のダリルは素直だけど凄く能力を持っていてしっかりしていて(笑)周りの大人がすっかりしてやられていますが、これも楽しいところの1つかも。雑誌掲載が中心のため、多分発刊はスローペースだろうとは思いますが、これからの展開がとても楽しみです。ゆっくりでもいいのでぜひぜひ、頑張ってエンドマークまで突き進んで欲しいなと思います。

私的評価 ☆☆☆☆
(表紙イラストのうち、バックに描かれているメガネな人が気になってるんですが、これ、誰だろう?ソウルなのかなあ…。)

 

 2005年10月29日(土)  貴族探偵エドワード 銀の瞳が映すもの

   ビーンズ文庫   椹野道流:作  ひだかなみ:絵

椹野先生の初ビーンズ文庫はイギリスチックな(笑)雰囲気漂う探偵モノのお話です。探偵といっても、タイトルの示す通り、貴族のおぼっちゃまがやっている探偵で、シャーロック・ホームズ的な感じではありません。主人公は貴族の末っ子エドワード。名門パブリックスクールを卒業したての十八歳。しかし大学には進まず探偵をやると言い出し、周りの反対をよそに守役のシーヴァと共に下町に探偵事務所をかまえますが…。

毎度のことながら、どうも霊感系のお話になってますな(笑)やっぱりスタートが奇談だったからでしょうか。タカビーそうに見えて気配りくんなエドワードも、すばらしい助手なのに純情なシーヴァもなかなかいいキャラクターです。ラストで仲間に入るキャラも可愛くて生意気で好きなんですが、個人的にどうも足が速そうに思えてしまう(笑)関西人な私でした…(笑)できたら名前だけにして、苗字はあまり書いて欲しくないなあ(^^; あと、ほぼ同時発売のパレット文庫とイラストさんが一緒なのは、どっちか予定が狂ったんでしょうか(^^; 珍しいですよねえ。

私的評価 ☆☆☆
(これからどんどん続きそうなシリーズですが、他にもかなりシリーズを持たれているし、どれかちゃんとエンドマークがつくのか、ちょっと心配(^^;今の所全部続いてますよね…(^^;)

 

 2005年10月27日(木)  発明家に手を出すな

    キャラ文庫   烏城あきら:作   長門サイチ:絵

シャレードで活躍中の鳥城先生の初キャラ文庫は、鳥城先生お得意の専門職系の全編書き下ろしのお話です。主人公は大手電機会社に勤める弁理士。弁理士というのは発明家に代わって特許を申請する資格を持つ人の事を言い、一生懸命頑張っていましたが、短気な性格が災いし、上司に怒鳴り付けてしまったため、辞めざるを得なくなります。しょうがなく同じく弁理士をしている祖父のもとに行ったところ、緊急で代理の仕事をしなければならなくなり、慌てて発明家の元に赴いた主人公ですが…。

さすが、専門職を書かせたら素晴らしい鳥城先生ならではな、なかなか楽しめるお話でした。なんというか、発想が不思議で楽しいんですよね。で、仕事をしている人間にとってみれば、どこか共通して持っている信念のようなものがあって、共感できるんです。とても楽しんで読みました。難をいえば、仕事の描写が中心になってしまっているせいで、2人の心の通いあいがあまり書き込まれておらず、2人の関係…とくに主人公の心の動きが唐突に感じられてしまう点が気になりました。これはシャレードでも同じだったので、まあ、カラーなのかもしれませんが。

私的評価 ☆☆☆☆
(こういう仕事をしっかりするキャラは好みです。主人公も男前なキャラなので、わくわくして楽しい作品でした。)

 

 2005年10月27日(木)  夏休みには遅すぎる

    キャラ文庫   菱沢九月:作   山田ユギ:絵

菱沢先生の新刊は、全編書き下ろしのシリアスものです。主人公は大手繊維会社に勤める青年。線が細く色白な上、引っ込み思案なところがある主人公は、営業の仕事があまりあわずしんどい日々を送っています。ある日主人公の会社へ1人の男が訪ねてきます。祖母が倒れたと言うでっちあげの理由で主人公を連れ出したその男は、大学時代同室だった後輩で、しかもそのまま主人公を連れて逃避行をはじめてしまいますが…。

なんだか悲愴感が漂う作品です。いや、ちゃんとハッピーエンドなんですけど(^^; なにかある、というのは最初からわかっているし、途中でなんとなく予測はつくようになるんですが、それでもすごく読んでてしんどくなるお話でした。どんどん追い詰められていく後輩とそれを支える主人公の、無言の絆が強くて、辛そうで、だからこそ最後に幸せに笑う彼らにホッとします。個人的には後輩の兄が無愛想でシュールで面白くていいなとは思いますが、兄フェチじゃなかったらあんまり楽しいキャラじゃないかもなあ…(^^;

私的評価 ☆☆☆
(思っていたよりもかなりハードなお話だったのですが、まあ菱沢先生の作品には共通なシリアス加減かも。キャラの前作もかなりハードだったしなあ。少々濡れ場シーンが乱暴だったのだけがつらかったです。)

 

 2005年10月18日(火)  不機嫌で甘い爪痕

   スラッシュノベルズ  崎谷はるひ:作  桜城やや:絵

崎谷先生の2冊目のスラッシュノベルズは、小説BEaSTに掲載された、表題作と続編書き下ろしが収録されています。宝飾関係の会社の営業マンと契約デザイナーの青年とのお話です。主人公は宝飾会社で営業企画を担当している青年。気になる事や気に入ったものには異常とも思えるような集中力ぶりを見せる青年が、目下気になっているのは、自分が担当している契約デザイナーの青年。同僚から実は彼がゲイらしいと聞いた主人公。気になると止まらない性格そのままに、ゲイサイトを見てパソコンを吹っ飛ばしてしまい、悩んだ挙げ句に相手に告白してしまいますが…。

ヘタレ攻めここに極まれり、というぐらいに超ヘタレ君で、大変美味しく頂きました(笑)ヘタレ攻万歳(大笑)とはいえ、ちゃんときめるところは決めてくれて、根はヘタレじゃなくてしっかりしてるのが凄く好みです。雑誌掲載の時も美味しいキャラだと注目していたので、ノベルズになってほくほくして読みました。続編は受キャラ視点で、ちょっとぐるぐるしてるけど楽しかったです。仕事っぷりも男前で素敵でした♪

私的評価 ☆☆☆☆★
(このお話の続編が、また雑誌掲載されたので、シリーズ化されるのかな?雑誌掲載の続編も、けっこうツボでした(笑))

 

 2005年10月18日(火)  LOVE ME 10$

   ビ−ボ−イノベルズ  ひちわゆか:作  如月弘鷹:絵

一応「TOKYOジャンク」の別キャラ編になるのかなあ?ちょうど最終巻である「ラブミーテンダー」がノベルズになったころに、雑誌で掲載された番外編とその続編書き下ろし、そして全く別の近未来のお話が収録されています。主人公は年上の恋人を持つ大学生。主人公は恋人にベタ惚れですが、恋人はとんでもなくケチでしかもクールビューティ。あまりのケチ具合に振り回されつつ、それでも健気に追っかける主人公ですが…。

まさにヘタレ攻めの王道とも言うべき感じのお話です。雑誌掲載からすでにもう4年経ってるんですねえ…(しみじみ)けっこうブームを巻き起こした感じのTOKYOジャンクシリーズですが、もうそんなに経ってるとは思いも寄らず、びっくりです。この作品にはちらりと「暗くなるまで待って」のキャラ恭介と朔夜が隣人として出てきてますが、彼らも相変わらずで楽しかったです。久しぶりに全巻読み返してみるかな、と秋の夜長に夜更かし決定な(笑)1冊でした。

私的評価 ☆☆☆☆★
(随分いろんな本の予定がずれていたのですが、これは無事発売になりましたね。ヘタレ攻好きな方はぜひ、読んでみて下さい。TOKYOジャンクシリーズ好きの人も、懐かしいのでぜひ♪)

 

 2005年10月18日(火)  地上のマーメイド

   花丸文庫   一條惺理:作   麻生海:絵

新人作家さんのデビュー作にあたります。花丸新人賞を受賞された一條先生の初文庫は、学生が主人公のお話です。主人公は、小さい頃から虚弱体質で、あまり社交的ではない大人しい少年。学校の進路指導をきっかけに、バイトをしたいと叔父のレストランで手伝いを始めることになった主人公は、周りの反対はあるものの、楽しんでバイトをこなしていました。レストランの常連客の青年とも仲良くなり、だんだん自分に自信を持ちはじめた主人公。そんな矢先に、いきなり発作を起こして町中で倒れてしまいます。そんな彼を助けてくれたのは、どうやら大人気のバンドのメンバーらしくて…。

展開自体はわりと「ああ、そうだろうな」と思える定番だったりもしますが、主人公のがんばりと、常連客の励ましがすごくいいなと思いました。ラスト直前のシーンは本当に聞いてみたいなと思ったぐらい、なかなか感動できたし、満足度は高かったです。主人公の母や従兄の存在が非常にうっとおしいのは、まあある意味キャラとしては成功してるんだと思いますが、正直「こういう母親にはなりたくないよなあ…」とつい母親モードになってしまった(^^; 

私的評価 ☆☆☆★
(新人作家の方とのことですが、とても落ち着いた、心理描写の細かい作風の方のようです。とても好みなので、ぜひともこの路線でずっとお願いしたいなと個人的に切に祈りつつ(笑))

 

 2005年10月18日(火)  君知るや運命の恋

   花丸文庫    あすま理彩:作   如月弘鷹:絵

予定が出た時から、久々の如月先生のイラスト作品ということで、ちょっと楽しみだった作品です。昭和初期のまだ貴族が存在していたころの時代を描いたお話で、主人公は名門の公爵家の庶子である青年奈津。母の身分の低さから家では使用人同然の扱いを受け、家の外では気位の高い貴族と白い目で見られて、あまり幸せでない日々を過ごしていました。そんな彼が心秘かに思いを寄せていたのは、同級生である日高。しかしその日高こそが自分の家と対立関係にある相手で、その思いはひた隠しにせざるを得ませんでした。そんなある日、当主である兄が、なんと日高を拉致して地下牢に監禁して…。

最初はそんなに期待せず読んでいたのですが、途中からすっかりこのお話に引き込まれてしまいました。主人公の健気さもそうですが、無意識に惹かれあっていく2人の関係が凄く切なくてよかったです。とにかく幸の薄い主人公なので、ラストシーンは凄く感動してしまいました。…っていうか絶対この後が読みたい!(笑)きっとめっちゃめちゃ甘やかしていそうな気がするのは気のせいではないでしょう。

私的評価 ☆☆☆☆★
(如月先生のイラストが本当にぴったり。すごく雰囲気をかもし出していて、このイラストだからこそ、パズルがぴったりハマるみたいに、イイ作品になったのかなと。イラスト相乗効果ですね。)

 

 2005年10月11日火)  すべては彼の手のなかに

   クロスノベルズ   義月粧子:作  桜城やや:絵

兄弟ものだった「ホーム・スウィート・ホーム」の番外編にあたる全編書き下ろしの新刊です。主人公は優等生な高校生。美術部に所属していますが、ある日部室に忘れ物をしたのに気がついて取りにいったところ、なんと部員の女の子と部外者の男の子がコトに及んでいる現場に足を踏み入れてしまいます。とっさにあやまりその場を立ち去った主人公ですが、後日球技大会のテニス部門でその相手と対戦することになって…。

前作で兄弟のお邪魔虫役として出てきて「なんでこんな人でなしがいいんだ(^^;」と思っていたまさにその人でなしが主人公の相手でした…(^^; いやはや、こんなヤツにほれる主人公が不憫でしかたないです。…が、まあこういうとんでもなく人でなしを描写させたらぴかイチなのが義月先生で(笑)ひょっとしたら、どこまで嫌なヤツを書いてくれるかを期待しながら読んでいるのかもしれません。とはいえ、なんとか最後に挽回したものの、最後近くまで「こいつキライ!」と思えるようなキャラでしたが(苦笑)

私的評価 ☆☆☆★
(書き下ろしの前作キャラたちのその後を描いた短編も読めます。…が、やっぱり変わらないよなあ、この2人(^^; 読む人は選ぶ作品かもしれないなあ。)

 

 2005年10月08日(土)  スノーファンタジア

   ディアプラス文庫  うえだ真由:作  あさとえいり:絵

小説ディアプラスに掲載された、記憶喪失ネタのお話と、その続編書き下ろしです。主人公は親友に秘かに思いを寄せている大学生の青年。その親友は、誰にも言えない恋愛をしていました。相手の女性が家庭の事情で絶対内緒にしかできず、その彼女が海外へ留学に出かけることになっても大っぴらに見送る事すらできません。そんな親友に付き合って見送りをした主人公。親友の車で共に帰ろうとしますが、途中で事故にあい、かなりの大怪我をしてしまいます。しかも親友は記憶を失ってしまって…。

まあ、記憶喪失というのは良くあるネタなんですが、うえだ先生ならではの細やかな心理描写で、とても引き込まれて一気に読みました。記憶を失った親友に、そんなつもりはなくとも自分が恋人であると言ってしまったあとの主人公の心のゆれが、良くわかって切なくてしょうがなかったです。続編でも同じように葛藤の続く主人公ですが、きっと2人で手を取り合って頑張っていけることでしょう。

私的評価 ☆☆☆☆
(儚げなあさと先生のイラストも凄く素敵です。これ、2人で幸せに過ごす短編があったら絶対読む!(笑)かなりお気に入りになった1冊です。)

 

 2005年10月08日(土)  何でも屋なんでもアリ underdog 1・2

   ディアプラス文庫   菅野彰:作   麻生海:絵

角川書店系列だと思っていたシリーズが、新書館に移動して文庫化されました(笑)元は「ルビーにくちづけ」というラジオ番組のラジオドラマとして菅野先生が書き下ろした作品で、CDにもなり、またコミックスが角川書店からも発売されています。今回ラジオドラマの脚本から文庫へリライトと言う形でお目見えで、とても珍しいのではないかと思います。主人公敦は下町のリストランテを営む青年。亡き父の遺志を継ごうと頑張っていますが、今はもう1人のヘンな客しかやってこなくなって…。

私もCDから入った作品だったので、とにかく声が頭に響き渡るというか、読んでいても頭の中で各キャラが声優さんの声に変換していっててゴージャスな事この上なかったです(笑)ただ聞いて読んだだけの私でさえこんな感じなのだから、菅野先生は大変だっただろうなと思うとあとがきのお気持ちがよくわかります(笑) CDにくらべるとやっぱり菅野節というかすこしシリアス度が増し、各キャラのヘコミ度も増していますが、それもまた楽しめるところだと思います。今後もこのシリーズは形を変えて続くようなので、楽しみにしています。

私的評価 ☆☆☆☆
(現在発売の1、2巻連動でのおまけCD全プレや、続編のCDやコミック化も予定されているようです。キャストが激烈好みなので(笑)わくわくしています。)